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上野山コスモロジー

VOCA2021  撮影:上野則宏

近年の尾花の制作は、緻密な地域リサーチを通じて、史実の周辺を独自の観点で炙り出し、直線的な歴史に複数の視点を照射することで、現代社会の価値観からこぼれ落ちる周縁的存在に温もりある眼差しを与える。
本作は、脈々と制度化されてきた美術において、このVOCA展やその会場となる上野の森美術館の位置する上野という場所が、美術の権力化にも大衆化にも同時進行で加担し続けてきたことに気づかせてくれる。上野は《モナリザ》のような名画が展示されもするし、団体展のような美術に親しみを持つ市民の発表の場でもある。さらに尾花は、道端で商売をする似顔絵描きや標識などに描かれたグラフィティへも表現としての敬意を示す。動物園のパンダと公園内で来場者がこぼしていった餌を探し求める都会の野生動物など人間の恣意的なものさしによって生まれる現代社会における存在の貴卑へ尾花は疑問を投げかけつつも、中央には自身の子どもの頃に父親に連れて行かれた上野での団体展についての回想を加えることで、自らの画家としてのアイデンティティと上野との関係を問い直す作品に仕上げている。

今井 朋(アーツ前橋)

 
 
VOCA2021